2027年4月、聖ヨゼフ学園中学・高等学校(以下、聖ヨゼフ学園)は「開智横浜国際中学・高等学校」(以下、開智横浜国際)へと校名を変更し、新たなスタートを切ります。
7月に塾対象の学校説明会に参加した際にも、このコラムで、学校改革や2027年度入試についての速報と、探究学習や新しい教育についての続報をお伝えしました。
その後、9月に入り、2027年度入試に向けた情報が少しずつ具体的になってきました。
そして今、私が特に注目しているのが、中学受験市場での動きです。
聖ヨゼフ学園から開智横浜国際への移行を前に、予想偏差値は大きく動き、受験市場での位置づけにも変化が表れています。
私は塾業界で約20年、受験指導に携わってきました。その間、大学との関係や共学化などをきっかけに、学校の位置づけが大きく変わる場面を何度も見てきました。
では今回、聖ヨゼフ学園が「開智横浜国際」になることで、何が変わろうとしているのでしょうか。
9月16日に参加した学校説明会の内容も踏まえながら、これまで中学受験を見てきた立場から考えてみたいと思います。
大学との関係で変わってきた横浜の学校
私が横浜で受験指導を始めて間もないころ、中央大学附属横浜中学校・高等学校(以下、中央大学附属横浜)の前身である横浜山手女子中学校・高等学校(以下、横浜山手女子)が中央大学の系属校となり、その後、附属校へと変わっていきました。
大学との関係が深まることで学校への注目が高まり、中学受験の状況も大きく変わっていく。その変化を、私は実際の受験指導の中で経験しました。
その後も、横須賀学院中学高等学校(以下、横須賀学院)と青山学院大学の教育提携、横浜英和女学院中学高等学校(現青山学院横浜英和中学高等学校、以下、青山学院横浜英和)の青山学院大学との系属校化など、大学との関係をきっかけに学校が変わっていく場面を見てきました。
ただし、これらはすべて同じ形ではありません。
横須賀学院と青山学院大学は「教育提携」です。提携後、青山学院大学への推薦入学枠は実際に拡充されてきましたが、大学の附属校や系属校になったわけではありません。
一方、横浜山手女子や横浜英和女学院では、大学との関係が変わった後に女子校から共学校へという大きな変化もありました。
大学との関係、進学制度、共学化。いくつもの変化が重なることで、受験生や保護者から見た学校の位置づけも変わっていきます。
では、今回の聖ヨゼフ学園はどうでしょうか。
「開智横浜国際」への変更は、これまで私が見てきたケースとは少し事情が違います。
聖ヨゼフ学園から「開智横浜国際」へ
聖ヨゼフ学園から開智横浜国際への変更には、いくつか大きな特徴があります。
まず、中央大学附属横浜や青山学院横浜英和のように、大学の附属校・系属校になるわけではありません。
また、聖ヨゼフ学園はすでに共学校です。2020年度から段階的に共学化しており、現在は中高すべての学年が共学となっています。
つまり、女子校から共学校へ変わることで、受験できる層が大きく広がるという変化でもありません。
そしてもう一つ、大きく変わるのが宗教教育の位置づけです。
聖ヨゼフ学園はこれまでカトリックのミッションスクールとして教育を行ってきましたが、2027年度から開智横浜国際はミッションスクールではなくなります。
※宗教について学ばなくなるわけではありません。説明会では、教育基本法第15条にのっとり、宗教に関する一般的な教養などについては引き続き学んでいくという説明がありました。
大学附属化でも、共学化でもない。
それでも、ONETES(旧・首都圏模試センター)の予想偏差値を見ると、2026年中学入試の1月版で42だった聖ヨゼフ学園は、開智横浜国際として初めて入試を迎える2027年中学入試の9月版では53と大きく上昇しています。
受験生や保護者は「開智横浜国際」の何に期待しているのでしょうか。
私は、その背景には、開智学園がこれまでに取り組んできた教育や、大学進学実績への期待があるのではないかと考えています。
そして、それを考えるうえで思い浮かぶのが、開智日本橋学園中学・高等学校(以下、開智日本橋学園)と開智所沢中等教育学校(以下、開智所沢)です。
開智日本橋、開智所沢、そして開智横浜国際へ
開智日本橋学園の前身は、日本橋女学館中学校・高等学校(以下、日本橋女学館)です。
ONETESの2014年の入試結果偏差値を見ると、日本橋女学館は入試回によって38~39でした。
その後、2015年に開智日本橋学園として新たなスタートを切り、中学受験での位置づけが大きく変わっていきました。
その変化を、開智所沢、そして今回の開智横浜国際も含めて、ONETESの偏差値から見てみます。
| 学校 | 中学入試 | 偏差値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 日本橋女学館 | 2014年 | 38~39 | 結果偏差値 |
| 開智日本橋学園 | 2017年 | 50 | 1月版予想偏差値・第1回 特待54 |
| 開智日本橋学園 | 2026年 | 67 | 1月版予想偏差値・第1回 |
| 開智所沢 | 2024年 | 56 | 1月版予想偏差値・第1回一般 特待は60台 |
| 開智所沢 | 2026年 | 67 | 1月版予想偏差値・第1回一般 特待A・算数特待73 |
| 聖ヨゼフ学園 | 2026年 | 42 | 1月版予想偏差値 |
| 開智横浜国際 | 2027年 | 53 | 9月版予想偏差値 |
※日本橋女学館は2014年入試の結果偏差値。それ以外はONETES(旧・首都圏模試センター)が公表している各年度の予想偏差値です。入試回によって偏差値は異なります。
出典:ONETES「偏差値一覧」
ただし、開智日本橋学園の場合には、開智学園による学校づくりが始まったことに加えて、それまでの女子校から共学校へと変わったことも大きな変化でした。
もう一つ比較したいのが、2024年に開校した開智所沢です。
私は毎年、ONETES主催をはじめ、中学受験に関するさまざまなセミナーに参加しています。開智所沢については、開校の1~2年前からたびたび話題に上がっていました。
開校前年には模試の予想偏差値も大きく動き、「開智日本橋に続いて、今度は所沢がどうなるのか」と、塾業界でもかなり注目されていたことを覚えています。
実際の入試でも、開校初年度となる2024年度の第1回一般入試には2,309人が志願。その後も多くの受験生を集め、2026年度の第1回一般入試では志願者が4,552人となっています。
ところが、今回の開智横浜国際は少し違いました。
毎年セミナーに参加していても、開智所沢のときのように、1年、2年前から「横浜に新しい開智ができる」という話を聞くことはありませんでした。
それにもかかわらず、発表後、中学受験市場は短期間で大きく動き始めています。
日本橋女学館から開智日本橋学園へ。
そして、新設された開智所沢。
今度は、聖ヨゼフ学園から開智横浜国際へ。
では、開智学園は横浜でどのような学校をつくろうとしているのでしょうか。
9月16日の学校説明会で、理事長のお話の中に何度も登場した言葉がありました。
「探究」です。
開智学園が重視する「探究」「フィールドワーク」
印象に残ったのが、ピアノが好きな生徒の話です。
ピアノを弾くことが好きな生徒が、ベートーヴェンの交響曲第3番とナポレオンとの関係を知り、そこから歴史に興味を持つようになる。
また、音楽が好きな生徒が、音には「波」という性質があることを知り、そこから数学へと興味を広げていく。
自分の好きなことや得意なことを入口にして、別の分野へと学びを広げていく。理事長は、こうした学びを「探究」の例として紹介していました。
もう一つ、繰り返し話されていたのがフィールドワークです。
開智学園では、教室の中だけで学ぶのではなく、実際に外へ出て、見たり、聞いたり、調べたりすることを重視しています。
説明会では、2024年に開校した開智所沢の第1期生が、高校2年次にイギリスでの海外フィールドワークを実施できるよう準備を進めているというお話がありました。ケンブリッジ大学での実施も視野に入れているそうです。
開智横浜国際でも、海外でのフィールドワークを実施できるよう準備を進めていくとのことでした。
一方で、理事長は、開智所沢で行っているフィールドワークを、そのまま開智横浜国際で行えるわけではないとも話していました。
学校の立地や周辺環境が違えば、フィールドワークでできることも変わります。開智横浜国際でも、その環境を生かしたフィールドワークを考えていくということなのだと思います。
聖ヨゼフ学園では現在、国際バカロレアのMYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)を導入しています。
開智横浜国際でもMYPを継続しながら、開智学園が重視してきた探究やフィールドワークを取り入れていくことになります。
説明会を聞いていて感じたのは、「開智」という名前に変わるだけではなく、教育の中身にも開智学園の考え方を取り入れていこうとしているということでした。
しかし、中学受験を考える保護者にとっては、もう一つ気になることがあります。
探究に力を入れながら、大学受験にはどう対応していくのか。
探究と大学受験をどう両立させるのか
探究やフィールドワークに力を入れる一方で、大学進学についても、今回の学校改革ではかなり意識されているように感じました。
説明会では、大学進学に向けた指導についても、これまで以上に強化していくというお話がありました。
聖ヨゼフ学園でも現在、夏休みには補習が行われていますが、開智横浜国際では、こうした進学指導をさらに充実させていく方針です。
また、説明会では英語・数学の習熟度別授業についても紹介されました。
この点について学校に確認したところ、現在は高校の英語と、中高の数学で習熟度別授業を実施しており、2027年度以降も継続する予定とのことでした。
そして、今回の学校改革で気になっていたのが、上智大学との関係です。
聖ヨゼフ学園はこれまで上智大学と高大連携を行ってきました。
2027年度以降もこの高大連携が継続されるかどうかは、現時点では未定です。
一方、「カトリック高等学校対象特別入学試験」については、2027年度から開智横浜国際が無宗教の学校となるため、出願資格を失います。
そのため、聖ヨゼフ学園の生徒がこの制度を利用できるのは2026年度まで(現在の高校3年生まで)となります。
高大連携や特別入学試験の扱いには変化がありますが、その一方で、開智横浜国際では大学進学に向けた指導そのものを強化していくことになります。
MYPを継続し、探究やフィールドワークを重視する。
そして、大学進学に向けた指導も強化していく。
この二つを、実際の学校生活の中でどう両立させていくのか。
私は、ここが開智横浜国際を見るうえで、とても重要なポイントになると考えています。
偏差値が動く、その数字の向こう側に
学校が大きく変わるとき、その変化は偏差値にも表れます。
しかし、偏差値が上がるということは、それまでその学校を目指していた子どもたちにとっては、手が届きにくい学校になる可能性があるということでもあります。
私には、学校が大きく変わるときに今でも思い出す生徒がいます。
当時、小学5年生から中学受験の勉強を始めた女の子がいました。
お姉さんが横浜山手女子に通っていて、自分も同じ学校に行きたいと考えていた生徒です。
小学5年生からのスタートは中学受験としては少し遅めでしたが、それまでの横浜山手女子であれば、十分に目指せる位置にいました。
ところが、中央大学との関係が発表されると、学校を取り巻く状況は大きく変わりました。
本人も簡単な受験ではないことはわかっていました。それでも、本当によく勉強して、最後まで中央大学横浜山手女子(現・中央大学附属横浜)を目指しました。
結果は残念ながら不合格でした。
しかし、結果報告に来てくれた彼女は、とてもすっきりとした表情をしていました。
きっと悔しかったと思います。それでも、私の前ではほとんど涙を見せませんでした。
お姉ちゃんと同じ学校に行かせてあげたかった。
第二志望校に合格していたとはいえ、今でもこのときのことを思い出すと胸が詰まります。
そして当時の私は、学校が大学との関係を深めるということが、中学受験をする子どもたちにとってこれほど大きな変化になるのだということを、実際の受験を通して知りました。
今回、聖ヨゼフ学園から開智横浜国際への変化を見ながら、あのときのことを思い出しています。
学校が変わるとき、最初に動くのは校名や偏差値かもしれません。
しかし、本当に見たいのは、その学校に入った生徒たちがどのように学び、どのように成長し、どのような進路を選んでいくのかです。
2027年に高校から入学する生徒たちの進路が見えてくるのは3年後。
そして、中学から入学する最初の生徒たちが6年間を過ごした先には、MYPや探究、フィールドワーク、そして大学進学に向けた指導が、どのような結果につながったのかも見えてくるはずです。
校名が「開智横浜国際」に変わる2027年が、この学校改革のゴールではありません。
まず3年後。そして6年後。
入学した生徒たちがどのように学び、成長し、どのような進路を選んでいくのか。
学校の本当の変化が見えてくるのは、むしろそこからなのだと思います。
